夢− 第2夜 −

 そこは既に城の中。長く続く回廊は薄暗く、しばらく歩くと何も見えない位、真っ暗になった。手探りで歩いていると、向こうにうっすら何かが見える。足早に近寄ってみると、それはアーチ型の扉だった。

 僕はこの扉を開けなければいけないが、決して扉には手を触れなかった。この扉は触れずに開けなければ、いや、必要に迫られて扉が開きたくなる状況に自分を追い込まなければ、決して開かないのだ。僕は以前の失敗から、このことを学んでいた。しかし、ほどなくこの扉は開くことを僕は知っていた。何故なら、扉が開きたくなる状況が、すぐそこまで近づいてきているのだ…。

 僕の後ろの回廊は、どんどん「なんでもないもの」になっていった。もうすぐここも「なんでもなく」なってしまう。そう、あと数十分で僕を含めたこの扉さえ、「なんでもないもの」になってしまうのだ。「なんでもないもの」になってゆく気配はひしひしと感じられたが、僕は決して後ろを振り返ることはなかった。もし、回廊の中で一度でも後ろを振り返れば途端に「なんでもなく」なってしまう事を僕は知っていた。

 僕が「なんでもないもの」になって良いわけがないため、(夢の中のルール?極限まで自分を追い込むと全てが自分の都合の良い結果になる(^_^;))ぎりぎりまで我慢すればこの扉は必ず開く。この状況を一種楽しんでいる自分を扉に悟られないように、僕は必死で扉が開くことを祈り続けた。

 …かくして、遂に扉を開けさせることに僕は成功した。


 部屋に入った僕は、薄暗い廊下との余りの違いに絶句した。

 そこは、眩いばかりのステンドグラスが、壁面から天井に向かって一面を飾っている部屋だった。暗いところから急に光の中へ放り出されたことと、部屋の余りの美しさに、しばらく僕は放心状態となった。その複雑なステンドグラスを暫く眺めていると、段々それが人の顔に見えてきた。耳を澄ますと、ひそひそと何人もの人の声が聞こえる。何処からか聞こえるその声を、僕は「誰が、何を」話しているのか聴きた『が』った

 …これがいけなかった。


 正に話しているのはステンドグラスに描かれた人の姿そのものだった。彼らは暫くひそひそ声で話をしていたが、良く聴くと、どうやらお互いを褒め合っているようだった。褒められたステンドグラスは、褒めたステンドグラスに取り込まれ融合し、尚一層美しいステンドグラスになる。褒められる方は褒めた方に取り込まれないように、融合しきってしまう前に褒められたことを否定する。残った小さなステンドグラスは、違うステンドグラスに向かってここぞとばかりに褒めちぎる。そうやってキラキラと輝きながらステンドグラスはどんどん美しくなっていった。

 彼らは最初僕に気付かない様だったが、褒める相手を見失った、小さなステンドグラスが僕の存在に気付くと、途端に全てのステンドグラスが、待ってましたとばかりに僕のあらゆる所を褒めまくった。

 ここでいい気になってしまうと僕はステンドグラスになってしまう。ステンドグラスになっても別に構わないが、人を褒めながら一生暮らすなんて、ぞっとする。僕は自分の容姿に対する褒め言葉を否定するのはた易かったが、しびの甲冑を見たステンドグラスが一斉にその美しさを褒め讃えたとき、僕も、つい
「そうかな?」
と、思ってしまった。

 しまった。と思ったときには、もう既に手遅れで、しびの美しい甲冑と剣はキラキラと輝くステンドグラスになってしまっていた。元のみすぼらしい身なりとなった僕にステンドグラスはあまり興味を示さなかった様でまたお互いを褒め合い、その美しさを増していった。

 部屋の反対側には、入ってきた扉と同じ様なアーチ型の扉があったが、今回は開くはずもないので、夢が醒めるまでの間、見事に融合を繰り返す美しいステンドグラスを僕は楽しんだ。

− 第2夜 ここまで −

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