道程の途中で〜風待ち煙草〜

  ずっと歩き続けていると、足が痛くなるし、疲れるよね。上り坂だと、特にそう。
下を向いて一生懸命歩くのにも疲れたし、少し、休もう。
ふと立ち止まり、道ばたの石に腰掛けて、煙草に火をつける。
足下には蒲公英(たんぽぽ)が咲いている。綿毛の白い花が、僕をみていた。
どこにも行けず、じっと土と共に暮らしているのに、踏まれても伸びる強い命。
なぜ、そんなに強く生きていられるんだろう。羨ましいな、ってこぼしたら、
「土が近くて安心するんだ。だから、ここにいるだけ。」
いつか来る風を、ただ待っているだけなんだよ、だってさ。
それぞれが自分で選んだ生き方がある。
そう、きみは上を向くことを選び、僕は前を向くことを選んだだけなんだよね。

しばらくすると、優しい風が吹いてきた。あなたがくれた、「頑張れ」のことば。
あなたのことばは、僕の背中から吹いてくる、優しいフォローウィンドになる。
自分が後ろ向きだと、追い風も身体の向きで向かい風になるけど、
別に抗う必要はなくて、風にまかせていれば、自然に身体は前向きになるんだ。
「頑張れ」っていうのは「歩きなさい」ではなくて「歩いてもいいよ」ってことだから。
無理をすることはなにもなくて、歩きたくなれば歩き出せばいいだけだから。

走り疲れたら、歩けばいい
歩き疲れたら、休めばいい
休み疲れたら、どうせ
また、走り出したくなるから

僕に必要だったのは、立ち止まって煙草を吸う余裕だったんだね。
後ろを振り向くと、僕が通った道に、轍ができていた。
つまづいた石ころも、泥道で汚れた靴跡も、避けて通った水たまりも、
全部僕が歩いた証なんだね。
僕の前には道があって、僕の通ったあとには、轍ができる。ただ、それだけ。

風に吹かれているうちに、傷んだ足が癒えてきた。
携帯灰皿に煙草をねじ込んで、立ち上がる。
まわりをみると、少しだけ風景が明るくなった気がした。
全速力で走るのはまだ疲れるから、今度でいいや。
どこに行くかは、歩きながら考えればいいや。
ゆっくり、ゆっくり歩き出そう。

綿毛が風に吹かれて、僕の道しるべになる。
白い小さな綿毛たちのこえが、僕に語りかけてきた。

「じゃ、元気でね。頑張ってね」

うん、頑張るよ。

 …今なら、そう言えるかな?

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